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大阪市の中心部では多くのフードデリバリーのスポーツ自転車を目にします。コロナ終息の目途が立たず、閉そく感が漂う中で、この業態の急拡大が注目であると本ブログでも2月に書きましたが、スポーツ自転車の有用性が徐々に受け入れられ、物流の一端を担う新しい社会へと転換を垣間見たような気がしています。

 

foodderiveiry 2021

 

2月の調査では、フードデリバリーに使用される自転車の約半数はスポーツタイプの自転車で、その大半がクロスバイクとなっていると紹介しました。扱いやすく、価格も安価なものから高くても10万円ほどで購入ができ、配達がゲーム感覚で楽しくなり、ある程度の速度が出て配達の効率化もできます。

この分野の主役がクロスバイクであるということを正視していただいた上で、配達パートナーの5%ほどが活用している電動シェアサイクルの話をしたいと思います。

 

快走する電動アシスト付きのシェアサイクル 

2017年に自転車活用推進法が施行されると大阪市でも阪急やJR西日本など電鉄会社がレンタルサイクルの子会社を設立、この分野で先行する中国企業なども含め、複数の事業者がレンタルサイクルのサービスを開始します。

 

hello cycle

 

レンタルで使用される自転車はスポーツタイプではなくママチャリ型の電動アシスト車で、特に目を引くのはNTT Docomoが展開する「bike share service」の赤い小径車です。大阪市内ではNPO法人とタッグを組み急拡大、レンタル自転車のおよそ8割がこの赤い自転車となっています。

 

「地元よりも、電車賃を払って市内で稼働した方が稼げる」

 

「bike share service」はアプリを使い簡単に登録が可能で、低コストで電動自転車が利用できます。同サービスを利用している配達員に話を聞くと、郊外から電車で出勤し市内で稼働した方が効率よく仕事ができるといいます。シェアサイクルはこのようにビジネスで利用以外に、観光やサイクリング、交通手段として成長する新産業であると考えられています。

docomo share bike

 

シェアサイクル事業のボトルネック「壊された自転車」問題

シェアサイクルは今後も成長を続けるのでしょうか。

スマホ端末を使用したシェアサイクルは2016年頃から中国にて急拡大、悪戦苦闘しながらも庶民の足として利用されています。フードデリバリー業のDiDiも、ソフトバンクGの支援を受けて中国国内にて、黄色がシンボルのシェアサイクル業「ofo」(オッフォ)に出資、DiDiの女性社長ジーン・リウが役員を歴任し大量の自転車を投入、日本でもシェアサービスを展開し、一時期は世界トップの自転車メーカーのジャイアントの買収も口にする程の勢いを見せていました。

offo

 

急成長するofoは資金の調達に苦しみジーン氏を通じて、ソフトバンクGに追加の融資を懇願しました。しかし、ジーン氏は同サービスの収益性と従業員の報酬の高さから投資不適格と判断し、ひっそりとサービスを終了しました。壊れた自転車が山積みになったニュース報道は、革新的サービスと最新のテクノロジーをもってしてもレンタル自転車業の難しさを物語っていました。

2010年代は、ユニクロなどの日系企業をターゲットに破壊行為が激化していたイメージがまだ残っていて、粗暴な中国人が自転車を破壊して故障車の山ができたと誤認している人もいました。報道においても「壊れた自転車の山」ではなく「壊された自転車の山」と誤解を招く表現を用いているケースもありました。

自転車の修理は労働集約型の作業で、たとえ合理化を進めても人が1時間で修理できる自転車は数台で、ofoのように補修作業者に高額な報酬を出していては収益化は難しくなります。要するにこの事業のボトルネックは、自転車の故障にどう対応するかなのです。

自転車は必ず壊れます。

新しいうちは故障が少ないのですが、タイヤやチェーンなどは消耗品で数年で交換しなければなりません。大量の自転車を迅速に対応していかねければ、日本でも「壊された自転車の山」ができてしまいます。この課題の解決策に「修理を外注すればいいのではないか」と考える人もいるかもしれませんが、それはかえってコスト高となってしまいますし、そもそも、技士の私から見ると、自転車が壊れる度に修理に出すのは、パソコンがフリーズするた度に電器屋に行くほど非効率に見えます。したがって、この事業の真価が問われるのは、部品が消耗する2~3年後という訳なのです。

 

話がフードデリバリーにもどりますが、急成長するUBER EATSやDiDiに対し、先行していた「出前館」の成長速度が遅いのもこれで説明がつきます。前者は自転車を配達員が用意し修理代も負担するのに対し、出前館はアルバイトによる宅配と「配達業務委託」の両輪となっています。アルバイトが配達する自転車やバイクは同社が用意し、アルバイトが修理代を負担することはありません。これらの経費が負担となり、他社と比べ成長が遅くなり、数年後には乗り越えなければならない試練の時期が訪れるということとなります。