東京の中心部・青山一帯に広がる明治神宮外苑、2度のオリンピック会場に使用され都民の憩いの場となっている広大な敷地の再開発をめぐって対立がおきています。
明治神宮は明治天皇を追頌する施設として1920年創建され、鳥居や社殿のある森厳荘重な内苑と外苑に分かれています。外苑は市街地化した北参道を挟んだ内苑の東側に一般からの献金で1926年完成、文化・スポーツ施設があり、緑豊かな空間となっています。献木された10万木の人工林の杜が再開発によって破壊されると、地域住民や活動家、政治家、ミュージシャンや作家が声を上げ、反対運動へと発展しています。

とりわけ、外苑を象徴する青山口から真っすぐ伸びた四列のイチョウ並木は秋には黄金色に輝き、ひっそりたたずむ聖徳記念絵画館を美しく彩ります。並木は関東大震災後に植樹され、交通量の多い自動車道に並行しアスファルトのプロムナードが敷設されています。計画ではこの並木には手を付けず、オープンスペースを倍増し緑地面積を減らさないとしていますが、充分な説明が届いておらず合意形成ができていません。
私は石原慎太郎都知事の時代に東京に住んでいて、何度か外苑も行ったことがありますが、大阪に移住しこのような報道を受けて久しぶりに苑内を歩いてみました。

▲開放され自転車イベントが定期開催された神宮外苑
並木のイチョウの幹径は御堂筋やなにわ筋のものより太く、樹形が整っています。明治期の建築家 伊東忠太による異彩を放つ外苑の世界観は現代には再現不可能で、安藤忠雄や隈研吾のスタバにするのはもったいないような気がします。ただ、実際に行ってみると、人影はまばらで自動車が抜け道としてただ利用しているような感じで、確かに再開発の必要性も感じます。
伊東は辰野金吾の弟子で、幻獣をモチーフとした阪急梅田の旧コンコースや築地本願寺の設計でも知られています。再開発議論は樹木の伐採に矮小化されていますが、私はむしろ重要なのは明治期から積み重ねてきた文化をどのように破壊せず継承するかに重点を置いた方が良いのではないかと考えています。

▲人の姿がまばらな神宮外苑の遊歩道
外苑は戦時中は兵練場となり、1941年3月10日には戦意高揚のための2300人の青年が銃を背負い自転車でのパレード走行「国防自転車行進」が実施され、終戦後の68年からは日曜祭日にサイクリングコースとして開放、自転車文化や交流の拠点となっています。
一日3万台交通量のある外苑をサイクリストに開放というのは前例がなく、警視庁は難色を示しましたが、明治神宮側は双手を挙げて賛成、我が国の自転車道建設の原点となり、ニューヨークのセントラル公園などに広がりました。こうしたことから、谷垣禎一代議士が代表を務めていた「日本サイクリング協会」(JCA)やシマノが運営するコミュニティスペース「OVE南青山」などが中心となり集会や走行会も頻繁に行われていました。

▲再開発で取り壊された神宮球場隣の「神宮外苑サイクリングセンター」
再開発工事以前には、苑内に1.2km周回コース「神宮外苑 サイクリング道路」が敷設され、自転車の試乗会やレンタルサイクル、小中学生を対象にした自転車安全教室など、自転車文化の向上・交通環境の改善を目指したイベントが定期的に開催されていましたが、一般にはほとんど知られていなかったような気がします。
「見たこと無いヤツいっぱい並んででるけどオマエら大丈夫か、コケんなよ。分かってるな」
「センセー前出てこい!雑魚ども道開けろ、退けっ!」
本年2月に苑内で開催のロードレース大会「第1回東京クリテウム」にて、全日本実業団自転車連盟(JBCF)の安原昌弘理事長のレース前の冗談交じりであいさつが、あらぬ形で「暴言」としてSNSで拡散され炎上、不本意な形で注目を集め、安原氏は理事長を辞任し連盟は謝罪をしました。本件に関しては関係者ではないのでコメントは差し控えますが、普段の自転車イベントや活動も拡散や報道をお願いしたいものです。直近では5月5日に「サイクルドリームフェスタ2025」があるようですので、拡散をお願いします。

▲青山アートスクエア「自転車とモード展〜門外不出の八神商会コレクション〜」(2017年撮影)
また再開発では高層ビルが2棟建ち、秩父宮ラグビー場の南側の伊藤忠商事の東京本社ビルも建て替えとなります。本社屋入り口脇には「青山アートスクエア」という小さなギャラリーがあり、2013年から「アレックスモールトン 素晴らしき小径車の世界」「自転車とモード展〜門外不出のヤガミ・コレクション〜」など毎年5月に独特の切り口で自転車に関連したとアート展示を無料開催、東京の文化水準の高さを象徴していました。
このような文化も建て替えで断絶してしまわないか大いに懸念されます。

▲建築家 隈研吾氏デザインの新国立競技場
開発業者は2036年完成で「世界に誇れるスポーツ拠点の形成」を標榜していますが、自転車競技施設の計画が示されておらず、全く議論されないまま開発が進み、せっかく培ってきた自転車文化が縮小してしまうのではないかと心配をしています
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