8月31日のNHKスペシャル「大阪激流伝」は終戦から1970年万博までの大阪城近くの小さな町工場と実在した陸軍工廠に残された金属クズにまつわる家族のドラマでした。ドラマは堤真一さん主演で、町工場に残された資料や取材証言をもとに構成されゴールデンタイムに放送されました。

 

 

本ブログではかつて大阪が軍都として栄え、真田山の陸軍墓地安威川海軍倉庫など遺構が残っていることを投稿してきました。また、焦土化した大阪の混沌から復興平和産業への転換の経緯を自転車を通じて紹介してきました。ドラマは本ブログをなぞるような内容で、在日朝鮮人による静脈産業や左翼活動デモなどこれまでメディアが避けていた秘史にも踏み込んでおり、史実に近い現実味あるストーリーとなっていました。

 

 

堤さん演じる田口留蔵は、戦中に大阪城公園にあった東洋随一の軍事工場「陸軍大阪砲兵工廠」で兵器の製造に従事、戦後は金属加工を生業とし朝鮮戦争をきっかけに爆弾を米軍に供給、新しい工場は雇い順調に軌道に乗り、従業員を雇い仕事に打ち込みます。そこに在日朝鮮人の青年が工場に訪れ爆弾製造の中止を懇願、祖国を憂いながら大阪でギリギリの生活をする朝鮮人の葛藤が込み上げ、衝突寸前の人間模様が表現されていました。

 

「ウチは忘れへん、大阪が鉄クズやったことを」

 

本ブログではこれまで大阪朝鮮人騒擾事件(1948年)、東成署襲撃事件(1951年)、親子爆弾事件(1951年)と猪飼野不逞朝鮮による騒擾事件を取り上げてきましたが、朝鮮人暴動は難解な情勢を理解できるリテラシーがなければ差別主義を助長する恐れもあるため描写はなく、アパッチ族や自転車窃盗団へ言及もありませんでした。

 

 

猪飼野(いかいの)の在日朝鮮人は激しく職業差別を受けほぼ定職にありつけず75%が無職、ほとんどは日雇いや古鉄収集で何とかその日を生き、ヒロポンやドブロクの密造・空巣や洋犬盗など組織犯罪を繰り返し、共産主義を支持する北鮮系「朝鮮総連」と米国を支持する民団系の代理戦争が日常化していました。アパッチ族というのは大阪工廠から古鉄を盗んでいた朝鮮人窃盗団のことで、1956年にはよせや経由の鉄スクラップを規制する大阪府金属屑営業条例が成立しました。私が放送をみて一番驚いたことは、アパッチ族だった金時鐘(キム・シジョン)本人が出演していたことです。

金時鐘は日本共産党(解放戦線)の上田等らとともに「吹田事件」に参加、吹田操車場や笹川良一宅を狙った騒擾事件は血のメーデー・大須事件とともに「三大騒擾事件」の一つとされています。金は詩人として活動して、私は本ブログでファンを公言していましたが、初めて肉声を耳にしました。失礼ながら存命されていることにも驚いたほどで大変貴重な放送だったように思います。

 

 

最後に私の好きな金時鐘の詩の一節を紹介したいと思います。

 

ズボンの/内側を/はぎとり/むれる/悪臭の/修羅場を/城ごと/あけ渡したのだ。
悲哀とは/山に包まれた/脱糞者の/心である。 (金時鐘「わが生と詩」から詩の一部を抜粋)

金は吹田操車場襲撃直前にあろうことか緊張のあまり脱糞、自らを脱北者ならぬ「脱糞者」として左翼運動に心酔していた若いころをユーモアを交え綴っています。金は朝鮮人であり日本人ではありませんが紛れもない大阪人であり、大阪の昭和史の一部なのです。

 

 

見逃した方は9月23日の昼1時からBSでデレクターズカット版が再放送されるようです。

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