これまで、本ブログでは関西を中心にいくつか競輪場の現状について投稿してきました。競輪は日本発祥の世界スポーツで1948年に北九州「小倉競輪場」と大阪府「住之江競輪場」で始まりました。和歌山競輪は1949年12月に始まり、主催は県、競輪場も県営施設となっています。88年に大阪の春木競馬場の廃止の影響で競走馬不足なり紀三井寺競馬場が閉鎖となって以降は、県下唯一の公営競技施設となっています。

 


▲和歌山市中心部から徒歩8分、県営「和歌山競輪場」

 

施設は和歌山市の中心市街地から近く「和歌山市駅」の北東側徒歩8分の紀ノ川沿いという好立地となっています。バンクは400mの屋外型で、600台の無料駐車場が完備されています。少し昭和な感じはしますが、施設は管理されていて、訪問時もバンクの改修作業が行われていました。

京都や奈良の県営競輪場が些末に扱われている現状を考慮すると、人口が下回る和歌山県がそれなりに維持管理されていることは評価できます。1960年代競輪場は迷惑施設として忌避され、ピーク時で60以上あった施設が43施設まで減少、特に関西では共産系首長が次々に廃止、滋賀と兵庫県内は空白地帯となり、大阪市営および府営施設もすべて解体されました。

 

 

競輪はギャンブル依存対策として休催日が多く、和歌山も月間3日ほどしか開催していません。ターミナル駅から視認できるほどの好立地に所在しているにも関わらず、月に25日以上競走がなく、公益に資さない状態です。

 

<本ブログで紹介した競輪場の評価>
S
  なし

玉野
B  岸和田・小松島・和歌山 ココ
C  奈良・京都向日町(改修中)
D  明石・住之江・甲子園・大阪中央・鳴尾

(S-国際基準を満たす  A-良い  B-良くない  C-デンジャラス  D-廃止)

 

私が和歌山県に具体的に提起したいのが、この競輪場を自転車観光の拠点としてリニューアルし、スポーツや環境都市といった県のイメージに沿った新しい価値を持った公共空間に転換、市街地再生のシンボルとすると案です。

 

 

和歌山市駅と競輪場の間には数十件のバラック小屋があり廃屋化しています。和歌山に入り、車窓からまず見える光景がこれでは、衰退イメージから脱却できません。これらはどっちみち南海トラフ地震の津波で流される運命の木造家屋なので、競輪の収益で一帯を再整備し強靭化すれば減災にもつながります。

経済学者の宇沢弘文(1928-2014年)は「自然環境・社会的インフラストラクチャー・制度資本」の3点をゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にする「社会的共通資本」として目指す社会像としています。競輪場はまさしくこの「社会的共通資本」であり、地域と共進化する公共空間です。

 


鉄道の車窓からも目立ち、「顔」となる和歌山競輪場

 

和歌山市駅の駅ビルには市立図書館があり、スターバックスが併設されサードプレイスとなっています。エキナカはおしゃれなのですが、一歩外に出ると廃屋群となるとおしゃれなのは和歌山ではなくスタバだとなります。

天王寺「てんしば」やうめきた公園のように駅前を再整備、連動性を持たせ、競輪場もカフェや飲食店など商業施設を誘致、文化やスポーツ観光施設を設置すれば賑わいを取り戻し、都市型の競輪という新たな魅力も国内外にアピールできます。城址や砂浜はだいたいどこでもありますが、競輪場は母国日本といえども43か所しか現存せず、好立地の和歌山競輪場は大きな観光資源となりえます。しかも、税金やテナント料ではなく、競輪事業それ自体が収益を生んでいるため、大失敗がない確実な再開発なのです。

 


カフェが併設された「和歌市立図書館」

 

前回の投稿で成功の一例としてあげた玉野競輪場は岡山駅からローカル線を乗り継いだ終着駅からまだバスに乗り、競輪場以外なにもないような海辺の僻地に所在しています。人口5万人ほどの自治体ですが、収益を活用した施策が話題を集め、2022年にはモンストで知られるIT大手MIXIが地域振興や防災拠点として、子会社のホテルを建設、世界中から観光客が訪れるまちとなっています。

また、京都府の向日町競輪場も敷事地内に1万人収容の大型アリーナを併設する計画を発表、全国一ボロいとされていたバンクを改修しバスケットボール・バレーボールやK-POPライブなどコンサートも楽しめる複合運動施設に作事する予定で、地域住民からは来街者が集まりすぎて困るのではないかといった懸念が上がっているそうです。

 

 


▲人気観光地の香川県直島の対岸にある岡山県玉野市「玉野競輪場」

 

和歌山市は千葉県銚子市から1500km続くナショナルサイクリングルート「太平洋岸自転車道」の終点となっています。千葉から長距離ライドのサイクリストの目標地点としてエイドステーションや風光明媚な紀ノ川沿いを観光できるレンタルサイクルなどを競輪場に設置すると、なお地域が活性化するのではないでしょうか。

小津安二郎や北野武の映画にも描かれる日本の競輪、五輪の正式種目で世界スポーツ「KEIRIN」は外国人観光客にも受け入れられるはずです。そのためにも、国際基準に合致した施設の整備をまちを上げて取り組んではどうでしょうか。

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