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世界的なコロナ拡大で、自転車製造のサプライチェーンに甚大な影響を及ぼし、納期遅れや長期欠品などお客様には迷惑をおかけしております。コロナ前のような状況に戻るめどは立たず、少なくとも来年夏くらいまでは、店頭在庫分から自転車やパーツを選んでいただくような販売方法となることをお詫び申し上げます。

さらに、2022モデルは、様々な事情から、ほぼすべての自転車が値上げとなります。
一例を挙げますと以下の通りとなります。

 

・GIANT「ESCAPE R3」 ¥52000 → ¥56000
・GIOS「MISTRAL」¥51000→ ¥54000
・FUJI「FEATER」¥69000 → ¥75000
・tokyobike「26」¥76000 → ¥81500
・ルイガノ「EASEL 7.0」¥55000 → ¥62700

 

主要販売モデルを平均するとこの1年間で販売価格が8%上昇、納期の見通しが立たないことから受注の中止も相次いでいます。なかには、本日の受注で納期予定が2023年春(注意:2022年ではない)になるモデルもあり、専門学校の通学のために購入を検討している方の自転車が、卒業するころにようやく納車になるというトンデモないケースも想定されるなど、異常とも思える状況が常態化してきて、巷に漏れず自転車店の運営も厳しくなっています。

 

| 上昇する自転車の価格

経産省の調査では2016年34000円だった自転車(電動アシスト自転車を除く)の平均販売価格は、21年には47000円にまで上がり、22年はいよいよ5万円を出さなければ普通の自転車も購入できない状況に突入します。2000年代前期には平均販売価格10500円、局所的には6000円台で自転車が買えたことを考えると、この数年の急激な価格の上昇に自転車の買い替えを躊躇する方もいるのではないでしょうか。

 

「思っていた以上に高い」とお客様からの指摘を受けることも多くなり、頭をかかえ書店に行くと「安いニッポン」というタイトルの新書が平積みとなっていました。「どこが、安いんだよ…」と、思いながら手に取り読んでみると、意外にも日本の自転車産業にも当てはまる部分が多いように感じました。

 

yasuinippon

 

日本の自転車産業は1970年代ごろから黄金期を迎え、国内だけでなく世界的に高い評価を得ます。しかし、バブル崩壊、長引く不況などから国内の産業集積が弱体化、製造拠点が日本から中台に移っていったことは本ブログでも何度か取り上げています。気が付けば、弊社のパーツ売り上げも大半が台湾製となっています。

未だに、コスト削減のために各企業が台湾に工場を構えていると勘違いをしている人がいますが、すでに台湾の技術やブランド力は日本のそれを大きく上回り、独壇場となっています。

例えば、東大阪のOGKのグリップは300-800円ですが、米国ERGON社のグリップは3200-6000円と10倍近い価格です。ERGONは米国企業ですが、製造は台湾で行っています。同様に台湾の新興ブランドGUEEのグリップもOGKのグリップの2倍以上の価格で販売されています。

 

ogk erogn

自転車錠をとってみても、日本のゴリンのロックの中心販売価格が2000円以下に対し、海外メーカーは6000円を主力にラインナップをしています。しかも、日本企業の製品はこの安さをもってしても、決して高い評価を得ている訳ではなく、もはや世界市場を主戦場と考えていないようにも見えます。ジャーナリストの野嶋剛氏は日本の自転車企業のこのような危機的な状態を「不戦敗」と評しています。

 

gorin kryptonite

 

「安いニッポン」では、日本のディズニーランドの入場料やダイソーやくら寿司の価格が海外に比べ最安値水準にあるということを指摘、「一物一値」のiPhoneやスタバのラテが高く感じ、贅沢品となっているとしています。

 

停滞する国内輪業と「安いニッポン」

日本人には自転車の5万円が高く感じるかもしれませんが、オランダやフランスの平均単価は10万円を超えています。国民性などの文化的背景などの影響もあると思いますが、同書では「長期間の経済停滞」と「低所得化」に原因があり、脱却の糸口を模索しています。

バブル崩壊後に伸び悩む国内の所得水準に、国内の自転車企業は、海外メーカーのように価格転嫁できず、40年前とほとんど販売価格が変わっていないように思えます。1982年当時の雑誌を開くと、高校生に人気だったブリヂストンのスポーツサイクル「ロードマン」が49800円、丸石の軽快車も49800円、ツールドフランスも制したミヤタのロードが30万円。流行の最先端であるアラヤ「マディフォックス」が10万円。当時の平均時給が423円だったことを考えると、さぞかし自転車企業は儲かったことでしょう。

 

<40年前の自転車の価格>
・ブリヂストン スポーツ車「ロードマン」 ¥49800
・フジ スポーツ車「フェザー コンポ」 ¥49900
・丸石 軽快車「プレイタウン」 ¥49800
・アラヤ MTB「マディフォックス」 ¥106000
・ミヤタ ロードバイク「エアロ」 ¥298000

(1982年大学初任給がおよそ13万円、最低賃金423円/h)

maruishi playtown
丸石「プレイタウン」サイクルスポーツ1982年1月号より

 

 

現在は自転車が安く購入でき、このような物価の停滞は、消費者の立場からすると歓迎すべきことのようにも思えます。しかし「安いニッポン」では、外資マネーによる国内企業の買収や商品の「買い負け」などの問題が指摘されています。実際に丸石・ミヤタ・フジは中台の企業から支援を受け、すでにニッポン企業とはいえない状況にあり、政府が後押ししている欧米企業に自転車部品の「買い負け」も鮮明になってきています。

そして、価格の停滞という点では、他人事ではなく私の店にも同じことが言えます。
開業から18年、修理工賃が上がっていくなどという感覚が想像もできず、当時と同じ価格となっているのです。

1982 osaka cycleshop

 

40年前は修理工賃が組合によって公定されていて、チェーン交換工賃2400円、ペダル交換1200円となっています。

修理工賃は、硬直化どころかむしろ今の大阪の水準を考えると、かなり高いようにも思えます。現在では公定工賃は事実上形骸化し、店舗数の多い大阪は安値競争も激化していて300~500円でパンク修理をしている店もあります。

 

1982 osaka

 

このように自転車小売店を取り巻く環境は厳しさを増しているのですが、加えて半年ほど前から気になる兆候が見えてきています。自転車小売店というのは、洋服店や飲食店などと比べ利益率がもともと良くありません。自転車店は仕入れ価格は一般的には商品の65~70%、価格転嫁できない国内自転車メーカーや部品メーカーから仕入価格を引き上げ要請が盛んになってきていて、なかには85%という極めて利益を出すのが難しい数値を提示されたりしています。

1000円の商品を850円で仕入れ、それに送料800円を負担すると650円の赤字となります。厳しい自転車店の現状を憐れんで「定価販売で少々他店と価格差があっても、パーツを馴染みの自転車屋で注文しよう」と善意を寄せても、このような状況では、店側は売上高は上がっても、経営は真綿で首を締められるように苦しくなるのです。これは少し極端な事例ですが、「安いニッポン」では日本の労働生産性(※2)の低さを指摘、その理由の一つが価格付けの安さだとしています。

同書は日本の製造業や価値観の「危機感」と煽る内容となっていて、思った以上に読みごたえがありました。本ブログではこれから「価格」にも注目しながら、国内外の自転車パーツを紹介していきたいと思います。

 


※投稿の価格は税抜です
※労働生産性=付加価値額 ÷ 労働者数