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古都奈良は710年に遷都され、東に大仏でお馴染み「東大寺」、西に「西大寺」が建立されました。西大寺も東大寺に引けを取らないほど壮大な伽藍を誇ったそうですが、台風や火災で平安時代には衰退し、現在では西大寺といえば寺よりも近鉄の乗り換え駅「大和西大寺駅」が先に思い浮かび、「安倍晋三銃撃事件」の現場として一躍有名になりました。平城京跡西側には、西大寺だけでなく世界遺産「唐招提寺」「薬師寺」など寺社が多く所在しています。今回は名刹「秋篠寺」に行ってきました。

 

 

大和西大寺は特急停車駅で大阪から約30分、自然豊かで快適な環境のベッドタウンとして開発が進んでいます。駅前にはルイヴィトン・ユニクロ・スターバックスなどが入居する商業施設「ならファミリー」があり、休日には周辺道路が渋滞するほど混雑します。秋篠寺は駅の1km北西側にあります。駅には観光用のレンタルサイクルもありますが、徒歩なら20分くらいかかります。

 


高感度な店舗が入居する西大寺の商業施設「ならファミリー」

 

秋も深まった12月上旬、温暖化の影響もあってかパーカー1枚でも過ごせそうな行楽日和、木の葉も萌えるように色づくシーズンで、京都の東山や嵐山では観光客によるオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化しているといいます。秋篠寺は境内の絨毯のような苔庭が有名で、あまり紅葉のイメージはありませんでしたが、差し色のようにコントラストで、詫び寂びを感じます。東洋美の到達点といった感じですが、意外なことに私以外に観光客の姿はなく、贅沢にも貸し切り状態でした。

 

 


苔庭に紅葉が映える秋篠寺

 

本堂に安置される伎芸天は「東洋のミューズ」と謳われ、本尊などを含め国の重要文化財に指定されています。ミューズとは、ミュージックとか博物館または瞑想といった言語の祖語で、音楽などを司るギリシャの芸術神に由来する言葉のようです。「アーネスト・フェノロサが薬師寺東塔を凍れる音楽と表現した」と中学2年のとき類塾で教えられた記憶があり、ずっと「音楽」ってなんやねん、と引っかかっていましたが、秋篠寺の「MUSE」→「MUSIC」→「東塔は音楽」ということで、うまく説明できませんが自分の中ではなんかスッキリしました。

 


東洋のミューズ「伎芸天」が安置される国宝の秋篠寺本堂

 

本堂内は撮影禁止で仏像の画像がなくて申し訳ありませんが、本堂内で一人、瞑想をして帰りました。秋篠寺周辺は、お屋敷が建ち並び、東側には奈良競輪場があります。

奈良競輪場は1950年開設の県営の333m走路の施設です。老朽化が激しく、ビニールシートがかけられていたり規制線が張られていて立入ができないエリアが結構あります。車いす用エレベーターや外国語案内も一切ないどころか、ほとんどの建物が耐震強度を満たしておらず閉鎖されていて、悲惨な状態であるということを2021年に本ブログにて投稿しました。

コロナ期間を経てもスタジアムの状況はあまり変わっていませんでしたが、前回に来た時よりも観客が増えていたように思います。

 


▲県内唯一の現存する公営競技場「奈良競輪場」

 

競輪場と駅の間は農地が広がりのどかな雰囲気となっていて、農作業中のシニア男性にこの辺りのお話を伺うことができました。

 

「昔はここに競馬場があって、今は秋篠川の遊水地で開発調整地域になってるんよ。競馬場は不採算でなくなったけど、子供の頃に行ったことあるよ」

 

競輪が始まると併設されていた秋篠競馬場(地方競馬)の人気が低下、1954年に廃止となりました。このような事例は珍しいことではなく、長居(大阪市)・春木(岸和田市)・鳴尾(現在の西宮)も同様に、併設された後に競馬が廃止されています。春木競馬場では周辺住民とのトラブルの影響もあったようですが、秋篠競馬はそのようなことはなく、単に不採算が原因で、跡地は一部はダム建設で廃村となった村人の移住先に活用、ほとんどは農地となり、現在に至っているようです。

 


奈良競輪場の隣にはかつて秋篠競馬場があった

 

 

「上の人らがなんにも考えとらん、奈良は悪政の縮図よ。モツ煮込み屋はあるけど、レストランをつくるとか、もっと若い女性や子供とかが、楽しめるように工夫しないとアカンよ」

 

男性は奈良競輪場や秋篠寺について、行政がしっかりとマネージメントしイメージを変えることが地域の振興につながると指摘、場内にある飲食店の改善などできることはまだまだあるのではないかと言います。一応、倒壊寸前のボロボロだったバラックの飲食店は建て替えられマシになっていましたが、新テナントは入っておらず場末感は残ったままでした。私がふと岡山県「玉野競輪場」に行ったことを思い出して、施設をリニューアルして地元野菜を使用したレストランや観光ホテルを併設して注目されていることを話すと、男性は「それはいい!それはいいわ!ああ、そりゃいい」と笑顔で繰り返されていました。

 

【参考①】玉野競輪の食堂「FORQ」
【参考②】競輪場に泊まれる玉野競輪「HOTEL10」

 


老朽化が激しい奈良競輪場内の建替前の施設 2021年3月撮影

 

競輪場はギャンブル依存症や地域の治安低下などを懸念し、迷惑施設と考える人も多いのですが、奈良競輪場を含めこれまでいくつかの公営競技場を訪れた印象では、このような歴史的遺産の生かすも殺すも行政次第のように思います。奈良は京都に負けない歴史的建造物の宝庫です。奈良県は今春に知事が変わり、のっけから自転車道路網政策の白紙撤回を表明するなど不安な一面をみせていますが、老朽化した県営施設をどのように運営していくのか手腕が問われるように思います。同じく県営(府営)の京都向日町競輪場では、なにやら新しい動きがありそうです。(つづく)