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京都唯一の競輪場「京都向日町競輪場」に行ってきました。

京都府向日市は京都府南部の大阪と京都市の中間に位置する小さな市で、府が1950年から競輪を実施しています。少しややこしいのですが「向日町競輪」(むこうまちけいりん)といっても町営ではなく府営で、しかも自治体も1972年から向日となって名称だけ残っています。古くは長岡京として首都として機能し、現在は西日本最小の市ながら府下でも屈指の行財政で、近畿圏でも屈指の高級住宅地となっています。

 

muukou

 

京都には向日町ともう一つ京都市営「宝ヶ池競輪場」というのがありましたが、1958年に市議会にてギャンブル施設に頼る市政に批判が高まり、たった99日という開催日数で廃止を決議、京都市の財政は真綿のように締め付けられ、府と市の財政状況の明暗を分けています。

 

mukomachi

 

向日町競輪場は阪急「東向日駅」の西側500mにあり、JR「向日市駅」からも徒歩圏で無料の駐車場もあります。入場料は50円、走路は400mの屋外型でナイター設備も完備され、ミッドナイト競輪も実施しています。私が行った3月15日は競走開催日でガールズケイリン(女子競輪)も実施されていましたが、観客席も混みあうことはなく感染症対策もばっちりでした。

 

velodrome

 

このバンクは歴代勝利数1位の通算1341勝「競輪の神様」とされた松本勝明がホームバンクと使用し、功績をたたえ同氏の名を冠した特別競走が実施され、敷地内には通算1000勝を記念した桜の木が植えてあr…あった形跡の切り株がありました…

 

matsumoto

 

 

敷地内には売店などがあり、お茶などが無料で飲むことできます。キャッシュレスには未対応、案内や券売機も日本語にしか対応していないようです。まあ、観客は60歳以上の日本人の男性ですのでそれでもいいのかもしれませんが、それより気になるのは劣悪な施設の管理状況です。

 

 

keirin kyoto

 

塩ビ屋根は破け、壁のペンキは剥がれ、バラック店舗のトタンは錆々、舗装はガタガタ、階段はブロックが崩れ、ところどころ規制線が張られ閉鎖状態で公共施設と思えぬ退廃感があります。ノスタルジーを感じるというより「危険」を感じるほどで廃屋化寸前の状態です。

 

velodrome kyoto

 

競輪の収益というのは、税収外収入として主催自治体の一般財源として活用され、施設維持は議会で決定された予算内で行います。売上金をまず施設維持費に活用できればいいのですが、サッカーや野球場と異なりギャンブル施設の競輪場は「迷惑施設」とされ、優先的に予算を組む政策になかなか合意を得ることができません。このような状況下で、最盛期には60施設以上あった競輪場は廃止が相次ぎ43施設に減少、関西圏は特に厳しい政治判断が下され10競輪場が廃止され、ほぼすべての施設が解体され跡形もなくなっています。

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<近畿の廃止・休止の競輪場>
※カッコ内は廃止年

鳴尾競輪場  (1950)
豊中競輪場 (1955)
宝ヶ池競輪場(1958)
神戸競輪場(1961)

明石競輪場(1961)
大阪中央競輪場 (1962)
住之江競輪場 (1964)
西宮競輪場 (2002)
甲子園競輪場 (2002)
大津びわこ競輪場 (2011)

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kyoto keirin

 

このような窮状を受けて、2003年より自転車競技法が改正されプロポーザル方式で一部の業務が民間に委託することが可能になり、一般企業が施設の運営に参画できるようになりました。向日町競輪は公営競技の写真判定システムの事業を手掛ける株式会社JPF(日本写真判定)が受託、BMXパークの設置や地元の向日市激辛商店街と「KARA-1グランプリ」を開催するなど収益が健全化しました。

2007年にJPFの代表に就任した渡辺俊太郎弁護士は慶応義塾大学法学部卒で、自転車事故の紛争処理を仲介する自転車ADRセンターの委員や日本サイクリング協会の理事も務め、同社の社長だった父親の死去に伴い役員となり早稲田大学大学院にて競輪場が果たす役割について研究、「勝利」「普及」「資金」の好循環がスポーツ繁栄につながるという「トリプルミッション」というスポーツ経営理論から競輪を分析、向日町を合わせて計6施設を黒字運営しています。

 

barracks

 

全国の競輪場では、地方債か積み立てによって基金を設置、ほぼすべての施設において平成期までに大規模修繕工事が実施されていますが、向日町は全国で唯一「基金がない」という無計画な管理体制に有識者からは改善が提案されています。

運営受託のJPFも、2021年の千葉競輪場の建替の見積もりに誤算があり、見込みでは総工費60億円のところ100億円を超え、赤字負担を千葉市に請求できない契約から所有していた貸しビルを売却し資金を工面、新競技「PIST6」(千葉競輪 250)を実施するもコロナの影響で無観客開催が続き逆風状態となっています。

 

bmx kyoto

 

取り巻く状況次第では2025年以降の運営の条件が整わないことも想定され、全国で最も施設の在り方が問われる競輪場となっています。JPFが千葉競輪場のように全面的に建て替え費用を負担するならよいのですが、公営競技の着順判定という労働集約型の地道な業務から立て続けに100億円の捻出を要望するのは他力本願が過ぎるように思います。

一昨年、奈良競輪場に行った時のブログにも投稿したのですが、私は広島県尾道の県営倉庫をリノベーションしたスポーツ自転車施設「Onomichi U2」のように飲食店や物販店がある複合施設に全面修繕をする方法が最善ではないかと考えています。そのためにはまず50円の入場料を無料化し敷地をオープンスペースとて活用し、大規模修繕のための基金を設立することが絶対条件であると思います。

 

ONOMICHI U2 県営倉庫を改装した複合施設「Onomichi U2」2016年撮影

 

また、JPFの渡辺氏は早大の修士論文にて、競輪場がギャンブル施設としての存在価値が強調され、利益をもたらせなけらば廃止を検討されるという考え方が主流であるという点にも触れています。例えば、野球場は全国に8000施設ほどありますが、阪神の甲子園球場ですら赤字となっています。いわんや、大半の球場施設は利益を生みませんが、自治体が率先して廃止をしていくことはありません。しかし、競輪場は違うのです。

少し誤解を与えかねない投稿になってしまいましたが、最後に、現役の43の競輪場は全施設「黒字」であり、地域経済に大きな貢献をしていることを改めて強調しておきたいと思います。