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「生駒山グラベル道」第1回現地調査

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大阪と奈良の間に横たわる生駒山地を越えるにはいくつかの山道コースがありますが、自転車が通行可能な舗装道路は限られています。最大斜度40%以上の酷道「暗峠」(くらがりとうげ)と「サイクリストのための百名峠ガイド」(八重洲出版)にも選ばれた「十三峠」(じゅうさんとうげ)の2つの峠はとりわけ全国からヒルクライマーが集まるほど名の知れたコースとなっています。

 

 

暗峠と十三峠はおよそ6km離れていますが、2つの峠は山頂に近い標高500m付近で縦走道路で連絡しており南北に移動することができます。ただし、この縦走道は車両通行禁止で認可を受けた車両以外は自転車も含めて現在は通行はできません。両峠の入り口には入山者を拒むように車両侵入防止のゲートがあり、トレランのランナーに向けて歩行者とのトラブルとなる走行をしないように注意喚起の看板もデカデカと掲げられています。

 

 

道路の正式な名称は分かりませんが、地元の人は森林整備の自動車が通ることからこの林道のことを「管理道」や「なるかわ管理道」と呼んでいるようです。路面は全体の3分の2以上が未舗装で、幅員は3mほどあります。山中にあるものの高低差はそれほどなく、草木も刈り取られ歩きやすいようによく整備されていて、山地を南北に歩けるようになっています。

 

 

 

雨上がりの9月中旬で大阪市内の最高気温32度と汗ばむ暑さでしたが、山の中は市街地より涼しく峠の温度計は12時時点で27度と表示されていました。休憩をしながら6kmを2時間かけてハイキング、平日だったせいか人は少なく、散歩客が2人、ハイキングが3組、トレランが4人と合計男女10人ほどがいました。

 

 

 

途中で大阪の街を見下ろし休憩、地元の方にこの道について詳しく聞くことができました。

 

「昔は府がちゃんと管理していてこの道でレンタル自転車なんかもやってたよ、(生駒山地の)奈良県側の道は(自転車が)いけるけど大阪側はどこも自転車禁止や。橋下(徹知事)になってからアカンようになったわ、住友林業に委託なってからは閉鎖しとる道もあるで」

 

毎週来ているというシニアの男性は生駒山地の奈良県側と大阪側の管理のレベルに言及、府の財政悪化による改革による大阪側のサービスレベルの低下を嘆いていました。また、現在は自転車禁止ですが、かつては禁止どころか府がレジャーとしてレンタル自転車サービスをおこなっていたということを教えてくれました。

 

 

しばらく男性と話していると60歳代の女性が合流、2人は知り合い同志のようでした。ベンチに腰掛けて3人で談笑しているとランナーが走り去り、ふとゲートの看板を思い出し女性に状況を聞きました。

 

「えっ?? この山? この山、全然、人なんかおらんよ。ほんま、全然。私、晴れたら(毎日のように)来てるけど、ほんま、全っ然。つつじの時くらいちゃうかな」

 

この管理道は「府民の森」という施設を貫通、数百メートルに渡ってつつじが植えられていて区間があり、道幅もやや狭く一部が急勾配となっています。女性によると開花の時期は花見客が訪れることもありますが、その時期以外はランナーとのトラブルなど考えられないほど、誰も来ない山道だそうです。

 

 

 

サイクルショップ203がある道頓堀周辺は、海外からの観光客をたくさん押しよせ、最近ではオーバーツーリズム(観光公害)が問題化しています。生駒山地は大阪市内からも鉄道で30分程度で行くことが可能で、クマも生息していませんし遭難の危険も考えられない登りやすい山です。日本書記にも登場するほどの古い歴史があり、山中には寺社・仏閣・遊郭・遊園地などの観光資源や滝・洞穴などの自然も楽しめます。観光客の分散化のためにも、再び観光に力をいれ海外の方を呼び込むことはできないものなのでしょうか。

 

「新・観光立国論」(2015,東洋経済新報社)の著者で、日本の観光政策に詳しいデービッド・アトキンソン氏は2018年に大阪市中央公会堂で行われた講演にて大阪のこれからの観光産業の戦略を提起、私はこのシンポジウムを聴講して衝撃を受けて、それ以来、押し寄せる海外からの観光客の見方が大きく変わりました。

 

「LCCで来て、エアビーで宿泊する中国や韓国人は練習です。本当に観光立国を目指すなら、10時間以上かけて来日し7泊8日で泊まり、お金を落とす欧米人をターゲットとすべきなのです」

 

アトキンソン氏はアジア人観光客は踏み台に過ぎず、大阪が真の観光立国を目指すなら日本に長期滞在する欧米人を取り込む必要性をあると熱弁、そして、そのために必要なのは「おもてなしの心」や神社・仏閣ではなく、なんと「自転車」だというのです。どういうことなのでしょうか。アトキンソン氏の本業は日本の歴史的な文化財や工芸品の修復です。まさか、観光産業の講演でアトキンソン氏の口から自転車の活用を提言があるとは全く予想していなかった私はただただ混乱しました。

 

「欧米人でもさすがに7日連続で仏像ばかりだとうんざりします。アクティビティ、例えばマウンテンバイクとか自転車が必要なのです」

 

外国人は大阪城や京都の風情を楽しみに来日しているものだと思っていた私にはアトキンソン氏の話はほんとに目からうろこでした。たしかに、東京の高尾山には1日1万人ほどの登山者がいると聞きます。関西圏でも高野山(和歌山)・嵐山(京都)・六甲山(兵庫)・吉野山(奈良)は観光客が多く訪れますが、大阪の山に観光に来る人はあまりいません。かつては観光客を集めていた生駒山も廃寺、廃ホテル、廃病院など廃墟マニアの肝試しスポットとなり、遊郭の灯も消えかかっています。

 

korea temple
無残な姿の生駒山中の朝鮮寺廃墟群 2022年5月筆者撮影

 

2017年には自転車活用推進法が制定され、自転車を活用した観光「サイクルツーリズム」の振興が明記されています。滋賀県「ビワイチ」や和歌山県「太平洋岸自転車道」は国土交通省がナショナルサイクリングルートに制定、兵庫県淡路島もビワイチに倣い「アワイチ」として自治体がアピール活動をしています。大阪は自転車の一大生産拠点ですが、自転車観光という点ではまだまだ余地を残しています。本ブログでは生駒山地の縦走道を「生駒山グラベル道」として、将来的に自転車利用を可能にできないかを考察していきたいと思います。

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リゾート&アート「玉野競輪場」の温故知新

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岡山県玉野市の「玉野競輪場」に行ってきました。

 

 

玉野競輪場は1950年に開設された岡山県下唯一の競輪場で、玉野市が競走を主催しています。玉野市は人口およそ5万人、1988年に瀬戸大橋が開通するまでは連絡船が往来し造船業も盛んな港湾都市でしたが、現在では市の歳入のおよそ3割を競輪事業会計に依存しています。対岸の四国側には高松市営「高松競輪場」があり、宇野港を経由しアートで世界的な脚光を浴びる香川県の直島に行くことができ、観光収入が新たな収益源となっている港町です。

 

 

競輪場は宇野港から徒歩15分ほど離れた海沿いに位置します。JR宇野駅から送迎バスも出ているようですが、この日は最高気温35度でバスも待てないほどの灼熱地獄だったのでタクシーで直行、10分もしないうちに施設が見え、外周をぐるっと廻って料金1000円でした。

 

 

バンクは一周400mの屋外型で、ちょうど台風が接近していて、強い海風が流れ込んでいました。入場料は無料、ナイター設備がありガールズケイリンも開催されています。2022年にスタンドが改修され、空調の効いた海を望む最高のロケーションからレースを観覧でき、本場開催日のこの日はファンでほとんど埋まっていました。

 

 

 

「あか、がんばれー」

 

競輪場のマスコットは選手をイメージした「ガッツ玉ちゃん」。家族連れもファンもいて、子供の声援が場内に響きます。トイレも清潔で、喫煙者スペースも設けられています。野球やサッカーなどのスポーツ競技場なら当たり前の光景でも、迷惑施設と疎まれ続けてきた競輪場はエレベーターがあるだけでもマシな方で、屋根や壁が穴だらけで戦後期から放置され、取り残されている施設の方が多かったりする現状があります。

 

 

施設内には競輪の歩みやレースのポイントを分かりやすくパネル化したキャラリーを併設、主催の玉野市は競輪の観客による集客だけででなく、競輪事業による潤沢な収入で港湾整備や芸術祭、観光振興等に取り組み高い波及効果をみせています。

 

 

2022年のリニューアルは単なる改修工事ではなく、公営競技場のあり方を大きく転換するような急進的なテコ入れで、建て替えにはモンストやマイミクで一世風靡したIT企業「株式会社MIXI」傘下の「株式会社チャリロト」が参加、施設の包括的な運営を行っています。

 

 

本ブログではこれまで、岸和田奈良京都向日町小松島といった昭和臭する施設の現状を紹介してきました。玉野競輪場は行政から見放された老朽化公営競技施設の運営に新たな希望を与える成功事例といえます。しかし、玉野競輪場はこれだけではありません。同施設の本当のスゴさを2回にわたって詳説していきたいと思います。

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